詳細
前のページへ戻る
メイ.サートン著.武田尚子訳『私は不死鳥を見た』みすず書房1998年 自伝のためのスケッチ」として書かれたこの回想記は、四十歳を過ぎて間もないメイ.サートンの、壮年期の活力に満ちた作品である。メイの両親の成長期だった一八九〇年ごろにはじまり、シェイデイヒルの学校生活からヴァージニアウルフの死のニュースに接した一九一四年までを描く。戦争と恐慌にゆさぶられてなお、ホイットマンの理想主義が生き、ロシアの実験と呼ばれた社会主義が高校生のメイにも新しい社会を夢見させ、基本的には人間性の善に信のおかれた時代。その中でメイは成人し、女優になり、劇団の主催者として資金を調達し、その運営に行き詰まった後、作家としての自覚に到達する。これはメイの青春放浪記でもあれば、自己発見の記でもある。ひと癖もふた癖もあることが魅力になっているようなさまざまな人物が登場して、忘れがたい足跡をメイの人生に刻み込む。この回想記を彩るそれぞれに華やかな人物群を活写するメイの筆は冴え、いったん読み始めると本をおくことが容易でない。各章が魅力とエネルギーにみちたこの回想記を、訳者はちゅうちょなくサートン最良の一冊と呼ぶ。